2012年06月10日

Marvin Israel

静岡の中古レコード・ショップ「サウンド・キッチン」が
発行している『ROCK54』というフリーペーパーで、
レコード・ジャケットについてのコラムを連載させて頂いている。

ロック、ポップス、ジャズなどジャンルを問わず、
自分がカッコいいと思ったジャケットについて
デザイナー視点から好き勝手書いているのだが、
先日入稿した原稿では
マーヴィン・イスラエルとローリング・ユーテミーという
2人のグラフィック・デザイナーについて書いた。

この2人はアトランティック・レーベルで腕を競い合ったデザイナーで、
50年代中期から60年代初期のアトランティックのジャズやR&Bの
アートワークを多く手掛け、その優雅さと気品がある作風は
ジャズやR&Bアーティストの地位を向上させたと評価されている。

マーヴィン・イスラエルの後輩だったローリング・ユーテミーは
アトランティックの社内デザイナーとして70年代まで活躍したが、
イスラエルは60年代初頭にアトランティックを離れ、
NYのパーソンズ・デザイン・スクールの講師に就任した。
短い間だったがあの『ハーパース・バザー』のデザインも担当し、
ダイアン・アーバスやリチャード・アヴェドンといった写真家からも
大いに尊敬されたという。

僕がマーヴィン・イスラエルに興味を持ったのは、
『ジャケガイノススメ』という本を作った時に
クリス・コナーの『He Loves Me, He Loves Me Not』という
アルバムのジャケットに一目惚れしてからだ。

まずは写真選択のセンスの良さ、
その写真を引き立てるために一切でしゃばらないシンプルなデザイン、
特に控えめだが的確なフォントの使い方には目を見張るものがある。

アトランティックの創始者アーメット・アーティガンは
かなりのアート・フリークだったそうだが、
音楽以外のあらゆる面で美的感覚の優れた人だったんではないか。

そんなことをすぐに想像できるほど、
アーティガンのもとで生み出された
マーヴィン・イスラエルの作品は素晴らしいものが多い。

(以下、全てマーヴィン・イスラエルが手掛けたジャケット)


Chris Connor.jpg


Wilbur De Paris.jpg


Jimmy Giuffre.jpg


Dick Katz.jpg


今日のBGM:「Train And The River」by The Jimmy Giuffre 3

↑映画『真夏の夜のジャズ』のオープニング・シーンを飾った
ジミー・ジュフリー・スリーもアトランティック・レーベル所属。
アトランティックというと熱いソウルのイメージだが、
50年代にはこんなにクールなジャズのアルバムをたくさん出していた。

↓この「Train And The River」が収録されているアルバムも
マーヴィン・イスラエルのお仕事。


Jimmy Giuffre2.jpg




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2011年08月03日

Jacket From The Same Photo Session

50年代や60年代のイージーリスニングのジャケットには
妖艶かつ美麗な女性モデルを扱ったものが非常に多いが、
そういったレコードを多く集めていると、
「あれ、このジャケどこかで見たことあるな」という
デジャヴ感覚に襲われることがたまにある。

偶然似ているというのではなく、
例えばあるコンポーザーのレコードのジャケットが、
別の演奏家のジャケットに使われている写真と同じロケやセットであったり、
アングルやポーズやデザインの構成をちょこっと変えただけ、
なんて場合があったりするのだ。

こういったフォト・セッションの「使い回し」は
同じレーベル内(または同系列のレーベル内)で見つかることがほとんどだ。
レコードというメディアが最盛期だった頃は、
月に大量に制作・リリースされていたわけだから、
アートワークの経費を削減する狙いが当然あったと思われる。

恐らくだが、あるフォト・セッションで大量に撮影した写真を
デザイン室にストックしておいて、
似たような方向性の音楽家のジャケットを作る際に
そこから適当に選んだりしたのではないか。

『ジャケガイノススメ』という本を作った時に、
自分がたまたま持っていた「使い回しジャケ」をあえて2組並べて掲載して、
レコード文化の面白さを控えめにアピールしてみたりした。

例えばこんなのとか↓


Martin Denny.jpg


Don Swan.jpg


こんなの↓


Quarteto Bossamba.jpg


The Packers.jpg


その後「使い回しジャケ」は全く発見できなかったのだが、
先日のブログでレス&ラリー・エルガートのジャケットを紹介したら、
同じ鎌倉に住むポップス・リスナーの大先輩Hさんから
「これ、同じフォト・セッションですよね」と、
あるレコードの添付画像が届いた。

レス&ラリー・エルガートのジャケット↓


Les And Larry Elgart.jpg


Hさんが送ってくれたチャーリー・バードとアルデマロ・ロメロのジャケ↓


Charlie Byrd.jpg


おおっ、確かに水着姿の女性がパレオを投げ捨てて、
波打ち際から足首まで海に浸かって、髪を色っぽくかき上げれば…。

レーベルも同じコロンビアだし、
間違いなく同じフォト・セッションでしょうね。
(チャーリー・バードの方が遅く撮影したのか、
陽が沈みかけて暗くなっちゃってる)

Hさん、貴重なご報告有難うございました。

これからも「使い回しジャケ捜査隊」は
地道に探索していきたいと思っています。


今日のBGM:「Moliendo Cafe」by Charlie Byrd & Aldemaro Romero

↑アメリカのギタリスト、チャーリー・バードと
ベネズエラの作曲家アルデマロ・ロメロとの共演アルバムから、
バードの超絶技巧による「コーヒー・ルンバ」を。


posted by Good Time Graphicker at 04:17| アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月09日

Works Of Alex Steinweiss‎

この日のブログで紹介した、
ロック登場以前のレコード業界で活躍したグラフィック・デザイナー、
アレックス・スタインワイス。

本ブログの内容に反応してメールをくれる方は
基本的にほとんどいないのだが、
このアレックス・スタインワイスには何と3人も反応して頂いた。
こんなにマニアックな話題なのにビックリ。

ロック時代のデザイナーやイラストレーターに関しては
研究も進んでいてファンも多いと思うが、
それ以前の1930年代〜50年代に活躍したアーティストとなると
日本ではほとんど知られていないから、
話題として新鮮だったのかも…と勝手に分析している。

さて、そのアレックス・スタインワイスの作品集が
先日アマゾンから届いた。

12インチのレコード・サイズくらいの大きな版型と
圧倒的な作品数(400ページ以上!)に、
時間を忘れてページを捲り続ける。
こんなにも趣味と実益を兼ねた本が今までにあっただろうか。
まさに一生の宝物。

スタインワイスは1940年代、コロンビア社で
数枚のSP盤を綴じた本のようなレコード・ブックを開発し、
数多く出版している。
まず表紙を捲るとそのシリーズが紹介されていた。
(例えばこういうやつ↓)

Record Book.jpg


コロンビアの他のレーベルではデッカやコーラル、
レコード・ジャケット以外ではレター・セットや雑誌の表紙、
お酒のパッケージ、何と陶器のデザインまで
手がけていることに驚いた。

更には『007 カジノロワイヤル』や『シャレード』といった
ハリウッド映画のポスター・デザインの習作まで載っていて、
映画の世界にも活躍の場を広げようとしていた野心も感じられて
実に興味深い。

この作品集がすごいのは、図版の美しさ。
版元のタッシェンには印刷がよくないものもたまにあるが、
この本は発色も綺麗だし、何より半世紀以上も前のジャケットなのに
汚れやキズひとつないのが素晴らしい。

この膨大な図版全てを1枚1枚フォトショップで補正したとなると、
そのエネルギーと時間を考えるだけで空恐ろしくなるが、
もしかしたらまだご存命(94歳!)のスタインワイス本人が、
全ての自分の作品のサンプル盤を長年大切に保管していたのかな
などと想像してみたり。

(以下、全て彼のアート・ワークによるジャケット)


Woody Herman.jpg


Bing Crosby.jpg


Daniel De Carlo.jpg



今日のBGM:「Tumbling Tumbleweeds」by Sons Of The Pioneers

↑1930〜40年代、デッカで活躍したコーラス・グループ、
サンズ・オブ・ザ・パイオニアズの代表曲。ポップス・ファンには
カート・ベッチャーのカヴァーでもお馴染みですね。

この曲が入っているカントリー&ウェスタンのオムニバス盤がこれ↓
ジーンズとウェスタン・ブーツで「4」という数字を表す
スタインワイスのデザイン・センスに脱帽!


All Time Country & Western.jpg


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