2011年02月07日

How High The Moon

この日のブログでちょこっと書いたレス・ポール本、
『レスポール大名鑑』(Pヴァイン・ブックス)を読んでいる。

ロック史上最大の功労者と言える
レス・ポールの全てを詰め込んだ1冊。

ギタリストのレス・ポール本人と、
彼がギブソンと共同開発したギター、レスポールについての
両方に触れられているけど、
やはり紙面を多く割いているのはギターの方。

そちらに関してはまだ読み進めてはいないが、
第1章で語られている人間レス・ポールについては
かなり面白く読んだ。

やはり神童というか天才というか。
10歳くらいまでにはハーモニカ、ピアノをマスター、
ギターを始めてすぐさま人前でプレイするようになって
チップを貰いまくったというから凄い。
また10代の頃に地下室に自分だけのラジオ局を開設したり、
小型のアンプ・システムと原始的なエレキ・ギターを
自作したというから恐れ入る。

レス・ポールという人間が本当に希有だなと思うのは、
音楽家のセンスと理工系の頭脳を両方持ち得たことだ。
普通こういうソフト面とハード面はあまり両立し得ないと思うんだけど、
本書を読むと2つともとんでもない才能だったことが改めて分かる。

ちなみにレスがあんなにも革新的なギター・サウンドを追求したきっかけは、
母親がラジオでレスのギターを他のギタリストと間違えたからだとか。
母親がいつ聴いても息子のギターだと分かるような、
個性的な音を作り出さなければいけないと思ったんだって。
あの驚異的なサウンドが
こんなにもほっこりとしたエピソードから生まれてたなんて。

読んでいて俄然面白くなってきたのは
やはり1940年代にメリー・フォードと出会ってから。
女性歌手のオーディションで出会った2人は
40年代から50年代にかけて、
レス・ポール&メリー・フォードとして世界を席巻する。

その項でも、
実はメリー・フォードもカントリー・ギターの名手だったことや、
1948年に2人して数百メートルの谷底に転落するという
凄まじい自動車事故から奇跡的に生還したことなど、
知らない情報だらけだった。

本書には600を超す図版が満載なのだが、
レス&メリーのレアな写真や、レコード・ジャケット、
シート・ミュージックなどがたくさん掲載されていてそれも見所のひとつ。
また、50年代に2人が出演したTVショウでの1コマなども
映像のキャプション画像と邦訳で再現されている。

中でも『オムニバス』というTV番組(1953年)には、
レス&メリーの録音がどのように行われているかを
2人が解説・再現したシーンがあって興味深かった。

このシーン、YouTubeにないかなと探してみたら
なんと全く同じものがアップされていた。

24トラックものテイクを重ねるというレスの説明に
司会者が驚愕したりして面白い。
何と言ってもレス・ポール、当時38歳のノリに乗った
早弾きプレイが見事!


今日のBGM:「How High The Moon」by Les Paul & Mary Ford

↑その『オムニバス』で披露してたナンバー。
このデュオの最初のビッグ・ヒットで、
1951年にチャート1位に輝き150万枚を売り上げたとある。
あまりの売れっぷりにキャピトルの重役たちが
「ギャングも泣いて謝るほどの大ヒット!」と悲鳴を上げたとか。
時代を感じるコメントが可笑しい。

↓当時のシート・ミュージック。


How High The Moon.jpg


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2011年02月01日

The Blues Guitar

HPの"Works"に
『ブルース・ギター大名鑑』をアップしました。

この仕事、昨年の12月には終わっていたのだが、
NY旅行やら何やらでアップするのが遅くなってしまった。

久々に本の装幀の仕事だった。
音楽ジャーナリストのリック・ベイティーという人が
2003年に編纂した『The American Blues Guitar』という洋書の
日本語版制作。本文のレイアウトはほぼ原書に倣ったが、
表紙やカヴァーをデザインし直した。

原書のタイトル通り、
アメリカのブルースの歴史をギターという側面から捉え直した内容。
個人的にはブルースは門外漢だが、
ロックの源流の1つを辿れば確実にブルースに行き着くわけで
そう考えると自分の興味とリンクする部分もかなりあって
作業中に「へぇ〜」とか「ほぉ〜」とか声を上げることもしばしばだった。

例えば、ブルースのボトルネック奏法は
ハワイアンのラップ・スティールから影響を受けているはずと
ライ・クーダーが力説していることや、
(更に彼はハワイアン・ミュージックがカントリーやヒルビリーにまで
影響を与えていると示唆している)
メタル御用達ギターとしての印象が強いフライングVが
実は1950年代にすでに発表されていたことなどは
(斬新すぎて市場の反応は皆無だったそうだが)
今回初めて知った事実で興味深かった。

特筆すべきは
本書には美しいギターの写真が多く、
マニア垂涎のヴィンテージ・ギターもミント状態で
大きく掲載されていることだ。

その中でも特に感動したのが
ナショナル社製のリゾネーター・ギターの美しさ。
金属性のボディにハワイの風景がエッチングやサンドブラスト(砂吹き)で
描かれていて、まるでアンティークの工芸品のような趣きだ。

National Style O.jpg

ギター・プレイヤーではない、
またはギターにそんなに興味のない音楽ファンでも
このような美しい写真を眺めるだけで十分に楽しめると思う。

ブルース&ギター・マニアはもちろん、
ロック・ファンの方々にもお薦めの1冊です。


今日のBGM:「Money For Nothing」by Dire Straits

↓リゾネーター・ギターの存在を初めて知ったのは
ダイアー・ストレイツの『Brothers In Arms』のジャケットだった。
本書によると、このジャケに使われているのは
"ナショナル社1936年製の14フレット・ジョイントのスタイルO"
というギターだそうだ(上の写真と同じ)。

↑曲は『Brothers In Arms』から
1985年に全米1位となった大ヒット曲。
当時MTVで見ない日は無いくらい、よくオン・エアされていた。


Dire Straits.jpg


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2010年12月17日

Little Symphonies

今読んでいる
『音の壁の向こう側 フィル・スペクター読本』が面白い。

この本が出た時には
『甦る伝説』みたいなバイオ本だと思ったのでスルーしてたのだが、
本屋でチラッと立ち読みしたら
どうやら色々な側面から焦点を当てた研究本らしくて
急に読みたくなった。

ダメもとで
歩いて1分の腰越図書館に購入申請をしたら
あっさり購入してくれちゃった。
(鎌倉市民でこの本借りるのたぶん僕だけですよー)

本書には音楽ライターやスペクター研究者の論文もあるんだけど、
面白いなと思ったのが
音楽を作っている同業者の言葉だった。

例えば英国のエンジニア/プロデューサーのフィル・チャップマン。
彼はスペクター・サウンドの再構築を延々やっている人で、
インタヴューの中で自分が制作した一番成功したスペクター的楽曲は?と聞かれ
トレイシー・ウルマンの「Sunglasses」を挙げたりしている。
この曲は僕も80年代に聴いて「よくやるなぁ」と驚いたナンバーで、
やっぱりこんなマニアな人が手がけてたのかと
今回初めて知った次第。

もう1人はトニー・ハッチ。
同時代に活躍した名プロデューサーとして、
イギリスとアメリカの録音の違い、スペクター・サウンドの分析など、
短いけどライバルらしい論文を寄せている。

更にはマーク・ワーツ。
この人のインタヴューが一番面白かった。
スペクターに対しての賞賛と嫉妬が入り交じった
実に人間臭い分析をしてる。
この人もイギリスのプロデューサーなので
アビイ・ロードで散々スペクター・サウンドを作ろうと
努力してみてダメだった話とか、
ジョージ・マーティンのことを全く評価してなかったりとか、
自国よりもアメリカへの憧れが強い人のように思える。
(ロイ・ウッドとかジェフ・リンの感性に近いかも)

やっぱり評論家やライターなどの机上の空論よりも、
現場で散々揉まれてきた人の話の方が圧倒的なリアリティがある。
クリエイターって意外と口下手だったり批評とか苦手だったりするけど、
モノを生み出す人がどんどん発言したり評論したりすれば
もっと物事の本質が後世に伝わるのではないかと思った。

ところで
ラリー・レヴィンの言葉の中に
「スペクターは今日良しとした音が、明日も同じに聴こえるように
トラックは絶対に分割しないと言い張っていた」とあった。

スペクターがモノラルにこだわった理由の1つだが、
同じクリエイターとして何となく理解できる。

デザイナーに例えると、
フォトショップのレイヤーを統合しないまま入稿しちゃうと、
後で誰かに勝手にイジられて作品が変わっちゃうかも
って恐れる気持ちと似てる?

(ものすごくスケール・ダウンした例えですけど…)


今日のBGM:「Cause I Love Him」by Alder Ray

↑本の中盤に、CD『Phil's Spectre - A Third Wall Of Soundalikes』
編纂したミック・パトリックによる
スペクター的楽曲ばかり紹介してるコーナーがあって、
その中で選ばれているアルダー・レイの曲。
ダーレン・ラヴの「Winter Wonderland」を彷彿とさせるイントロからして
完璧なスペクター・クローン・ナンバー。
作詞・作曲はゲイリー・ゼクリー(イエロー・バルーン!)、
アレンジはレイ・ポールマン、プロデュースはマーシャル・リーブ。
近親者による極上の真似っこガール・ポップ。
B面の「A Little Love(Will Go A Long Way)」も最高!


Alder Ray.jpg


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