黒人の奴隷問題をマカロニ・ウェスタン調で描いたタランティーノの新作。
『デス・プルーフ in グラインドハウス』以降の調子の良さを
本作でも維持していて、2時間45分の長丁場を全く苦にせず楽しめた。
マカロニ・ウェスタン・ファンの友人は
『続・荒野の用心棒』(原題「Django」)のリメイクかと
一瞬心躍らせたらしいが、本作は純然たるオリジナル作品。
もちろんインスパイアはあらゆる映画(『マンディンゴ』とか)から
受けており、過去の様々な音楽をサンプリングして
今時の新しいトラックを作ってしまうDJのような制作スタイルは、
数年前に西部劇『トゥルー・グリット』を丸ごとリメイクした
コーエン兄弟とはまた違った姿勢であり、
タランティーノの真骨頂だと思う。
アメリカの暗黒史である奴隷問題を扱った映画ではあるが、
歴史に忠実に描いているわけでもなくて、
その(ある意味)不真面目なエンタメ精神が
いかにもタランティーノらしくていいなと思う。
現に映画の中で衝撃的な場面のひとつだった、
屈強な奴隷同士を相手が死ぬまで戦わせるという奴隷主のゲームについては、
過去の歴史的文献にそんなことをしていたという記述はないらしい。
また、本作にはKKKの元祖と思われる覆面集団が登場するが、
随分と長い尺を使ってわざわざ小バカにしたような描き方をしてる。
そこら辺の演出にも、斜め目線のタランティーノ節が炸裂してて
すごく面白かった。
ジャンゴを演じたジェイミー・フォックスもカッコ良かったが、
前作『イングロリアス・バスターズ』で衝撃のナチ将校を演じた
クリストフ・ヴァルツが今回も素晴らしい存在感。
ジャンゴを雇う賞金稼ぎのドクター・キング・シュルツ役だが、
ドイツ系という設定がストーリーに上手く絡んでいて、
タランティーノは最初から完全にこのヴァルツをイメージして
キャラ作りをしているのが分かる。
あとレオナルド・ディカプリオの悪役振りもサマになってた。
歳を重ねてきてこういうヤクザな面も自然と出せるようになったのかな。
ここ最近のディカプー映画で一番良かったかも。
今回も(ヒッチコックばりに)タランティーノ自身が出演してて、
その役のオチの付け方に大爆笑。
元ネタ作品『続・荒野の用心棒』の監督だったフランコ・ネロの
カメオ出演には全く気付かなかったことが悔やまれる。
(っていうか、そんなことに気付く人いるの?)
でも考えてみれば、
ここ最近のタランティーノ映画って
過去にものすごい仕打ちを受けた主人公が敵に復讐するという
分かりやすい勧善懲悪の物語ばかり。
そういったアゲアゲ系の話の方が
彼の演出が一番冴えるのかも知れないけど、
もうそろそろ違うテイストの作品を観てみたい気がする。
今日のBGM:「I Got A Name」by Jim Croce
↑今回も古今東西の色々な音楽が使われていたけど、
個人的に一番印象的だったのはこの曲。
ジャンゴがドクター・キング・シュルツに正式に雇われ、
2人で賞金稼ぎの旅に出発するシーンでかかった
ジム・クロウチの「I Got A Name」。
「こんな俺にだって名前はあるぜ」という歌詞が
物語のシーンとシンクロして、感動的な使われ方をしていた。
調べてみたら、
『ラスト・アメリカン・ヒーロー』(1973年)の主題歌で、
作曲はチャールズ・フォックスなんですね。

