2014年08月24日

Foreign Correspondent

渋谷のヒューマントラストシネマで
ヒッチコックの『海外特派員』をリヴァイヴァル上映していたので、
三大映画祭という催しの特別上映らしい)
つい懐かしくなって観て来た。


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イギリスからハリウッドに進出して2作目。
渡米第1弾の『レベッカ』でいきなりアカデミー作品賞を受賞した後だけに、
更なる勢いを感じる超娯楽作品に仕上がっている。
『レベッカ』は精神世界の怖さを描いた少々陰鬱な作品だったけど、
この『海外特派員』は主人公のカラッとした明るさや行動力、
ラストのスペクタクル・シーンが見所のエンターテインメント作品。
後の『知りすぎていた男』や『北北西に進路を取れ』の
ルーツになってると言えるかも。

とは言え、ナチスが台頭してきた頃のヨーロッパの、
戦争前夜の暗澹たる社会情勢の中でのストーリーは結構シビアで、
スパイ、陰謀、暗殺、誘拐、拷問、飛行機の撃墜…といった
今ではお約束の映画的要素がてんこもり。
でも1940年という制作年を考えると、
それらが絵空事ではなくてまさに現実だったことに驚く。
世の中の出来事と並走したリアルな物語で
こんなにも面白い映画が作れるのだから、
ある意味でヒッチコックは時代に恵まれていたのかもしれない。

映像的に秀逸なシーンとして、
最初に観た時から強烈に覚えているのは雨の中の暗殺シーン。
群衆の傘の群れの中を暗殺犯が逃げていく様子を俯瞰で捉えていて、
傘がうごめく順番で犯人の逃げる道筋が分かるという、
見事な視覚的説明に感動を覚えた。

あと、『レベッカ』にも出ていたジョージ・サンダースが、
主人公のジョニー(ジョエル・マクリー)を助ける役で出ていて
実にいいキャラ(笑っちゃうほど典型的なイギリス訛り!)。
ラストでジョニーが電話で上司に事件を報告する際に、
絶妙な相づちを打ってフォローする場面は何度観ても面白い。

高校生になったばかりの頃、
杉真理の『Mistone』ツアー「No Time Concert Tour '84」に行って
パンフレットを買ったら、お薦めの映画10本が載っていて
その中にこの『海外特派員』があった。
思わずビデオを借りてきて観てみたら最高に面白くて、
ヒッチコック作品は全部観なければと思った。

ちなみに、そのお薦めの映画10本は他に
『街の灯』『愛情物語』『舞踏会の手帖』
『雨に唄えば』『ワン・フロム・ザ・ハート』などがあって、
今ではどれも自分のフェイヴァリット・ムーヴィーばかり。

杉さんは僕の映画ライフにおける師匠なのだ。


今日のBGM:「シネマは踊る」by 杉真理

↑杉さんによる映画讃歌。杉さん版「The Film Of My Love」。
歌詞の中にジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、
フレッド・アステア、ジンジャー・ロジャース、
クラーク・ゲーブル、ダニー・ケイ、
オードリー・ヘップバーン、ベティ・デイヴィス、
『ローマの休日』『イースター・パレード』『嘆きの天使』
『ライムライト』『カイロの紫のバラ』など、
至福の映画的キーワードが次から次へと出てくる。


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posted by Good Time Graphicker at 17:53| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月09日

The Devil And Miss Jones

現在、シネマヴェーラ渋谷で
『映画史上の名作11』という特集上映をやっていて、
その中から『悪魔とミス・ジョーンズ』という映画を観てきた。


The Devil and Miss Jones.jpg


30作品以上上映される中からなぜこの作品なのかと言えば、
信頼できる方のブログ情報を見て「面白そう」と思ったことと、
日本では今の今まで未公開・未ソフト化らしいので
これは観ておかねば!と。

で、やはりというかさすがというか、
これが実に面白かった。

NYにある大手デパートの経営者である
メリック(チャールズ・コバーン)は、
従業員たちが組合を作ろうとしているのを察知し、
首謀者を探ろうとして靴売り場の店員になりすまし潜入。
同じ売り場の女性店員(ジーン・アーサー)は
メリックを下流労働者と信じて色々と世話を焼くが…。

自分の身分を隠して組織に潜入するパターンって
往年のスクリューボール・コメディの王道。
我が愛しのビリー・ワイルダーも
三十路女が12歳の少女のフリをして少佐に惚れられる
『少佐と少女』(奇しくも本作と同じ1941年に制作!)や、
女装して楽団に潜入する『お熱いのがお好き』などで
そのパターンを何度も繰り返し使っているけど、
脚本家的には「いつ身分がバレるかのハラハラドキドキ感」が
物語を小気味よく牽引していくから堅実なパターンなのだろう。
本作も冒頭15分くらいで、社長のメリックが
新入社員として売り場に初登場する辺りから
一気に胸ぐらを掴まれるような面白い展開になる。
(ちなみに往年のハリウッド作品に自覚的なサラブレット、
ドリュー・バリモアは『25年目のキス』で
そのスクリューボール・パターンを見事に蘇らせている)

その手堅い面白さに加えて、
“労働組合と経営者の対立”というリベラルな題材を扱っている感じが
フランク・キャプラっぽくもある。
当初、悪魔のように性格の悪いメリックが、
同僚たちの素直さや明るさに次第に影響されていって
人間らしさを取り戻していく展開も実にキャプラっぽい。

というわけで、
ワイルダーmeetsキャプラな本作が面白くないわけがない!

監督は『オペラは踊る』『恋愛手帖』のサム・ウッド。
脚本を担当したノーマン・クラスナーはこの年(1941年)
本作でアカデミー脚本賞にノミネートされるが、
あの『市民ケーン』に敗れている。


今日のBGM:「Have You Met Miss Jones?」by The Jack Marshall Sextette


posted by Good Time Graphicker at 14:34| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月19日

Inside Llewyn Davis

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』を観た。


Inside Llewyn Davis.jpg


コーエン兄弟の久々の音楽ネタ映画ということで、
かなり前から期待していた。
映画のヒントとなったデイヴ・ヴァン・ロンクの自伝を
読んでから観ようと思っていたが、残念ながら間に合わず。

思ってた以上に地味な映画だったが、
非常に愛すべき作品、というのが第一印象。
全編失望感に支配されているのに、
あまり深刻ではないように見えるのは
飄々としたオスカー・アイザックの演技なのか、
フォーク・ミュージックのほんわかとした暖かさなのか、
はたまた準主役と言ってもいいあの「猫」の存在なのか。

お金のためにコロンビア・レコードに出向き、
ノヴェルティ風のポップ・ソングを歌うシーンのおかしさや、
シカゴまで行きアルバート・グロスマンとおぼしき人物の
オーディションを受けた時に言われた言葉の虚しさ、
ホーム・パーティで「1曲歌え」と言われて
「俺は生活のために歌っているんだ!」と怒った時の切なさなど、
ダメ男ルーウィンの言動のひとつひとつが
心に染み入って仕方がなかった。

「歌う」ことで生きる道を選んだルーウィン。
だが堅実な道を勧める姉と衝突し、
「俺はただ生存するために生きるのなんて嫌なんだ!」と吠える。
「あなたの世界じゃどうか知らないけれど、
みんな生存するために生きてるのよ」と冷静に答える姉。
この台詞、身につまされたなぁ。

キャリー・マリガンがクールでしたたかな
女性フォーク・シンガーとして登場。
自分がキャリー・マリガンを初めて意識した『17歳の肖像』も
本作と同じ1961年が舞台の映画だった。
やっぱりこの女優は60年代顔だなと思う。

最後にやっぱりあの「猫」のことを。
あの猫の名前はユリシーズだったが、
確かキャロル・キングがNYで飼っていた猫も
ギリシャ神話のユリシーズとペネロペの息子の名前からとった
テレマコスだったことを思い出す(ジェリー・ゴフィンが名付け親)。
1960年代初頭のNYではギリシャ神話から
猫の名前を付けるのが流行っていたのだろうか?

と思ったら、
『オー・ブラザー!』のジョージ・クルーニーの役名が
ユリシーズだったそうで、
そこから取ったんじゃないか推測してる方がいた。
なるほど、『オー・ブラザー!』と本作は
コーエン兄弟のルーツ・ミュージック映画として双璧を成すから、
そんな小さなリンクも嬉しくなる。

2本続けて観たくなった。


今日のBGM:「Farewell」by Bob Dylan

NYはフォーク・ミュージックが似合う街だなと、
このトレーラーを観てもつくづく思う。


posted by Good Time Graphicker at 04:04| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする