コーエン兄弟の久々の音楽ネタ映画ということで、
かなり前から期待していた。
映画のヒントとなったデイヴ・ヴァン・ロンクの自伝を
読んでから観ようと思っていたが、残念ながら間に合わず。
思ってた以上に地味な映画だったが、
非常に愛すべき作品、というのが第一印象。
全編失望感に支配されているのに、
あまり深刻ではないように見えるのは
飄々としたオスカー・アイザックの演技なのか、
フォーク・ミュージックのほんわかとした暖かさなのか、
はたまた準主役と言ってもいいあの「猫」の存在なのか。
お金のためにコロンビア・レコードに出向き、
ノヴェルティ風のポップ・ソングを歌うシーンのおかしさや、
シカゴまで行きアルバート・グロスマンとおぼしき人物の
オーディションを受けた時に言われた言葉の虚しさ、
ホーム・パーティで「1曲歌え」と言われて
「俺は生活のために歌っているんだ!」と怒った時の切なさなど、
ダメ男ルーウィンの言動のひとつひとつが
心に染み入って仕方がなかった。
「歌う」ことで生きる道を選んだルーウィン。
だが堅実な道を勧める姉と衝突し、
「俺はただ生存するために生きるのなんて嫌なんだ!」と吠える。
「あなたの世界じゃどうか知らないけれど、
みんな生存するために生きてるのよ」と冷静に答える姉。
この台詞、身につまされたなぁ。
キャリー・マリガンがクールでしたたかな
女性フォーク・シンガーとして登場。
自分がキャリー・マリガンを初めて意識した『17歳の肖像』も
本作と同じ1961年が舞台の映画だった。
やっぱりこの女優は60年代顔だなと思う。
最後にやっぱりあの「猫」のことを。
あの猫の名前はユリシーズだったが、
確かキャロル・キングがNYで飼っていた猫も
ギリシャ神話のユリシーズとペネロペの息子の名前からとった
テレマコスだったことを思い出す(ジェリー・ゴフィンが名付け親)。
1960年代初頭のNYではギリシャ神話から
猫の名前を付けるのが流行っていたのだろうか?
と思ったら、
『オー・ブラザー!』のジョージ・クルーニーの役名が
ユリシーズだったそうで、
そこから取ったんじゃないか推測してる方がいた。
なるほど、『オー・ブラザー!』と本作は
コーエン兄弟のルーツ・ミュージック映画として双璧を成すから、
そんな小さなリンクも嬉しくなる。
2本続けて観たくなった。
今日のBGM:「Farewell」by Bob Dylan
NYはフォーク・ミュージックが似合う街だなと、
このトレーラーを観てもつくづく思う。