バカラックのコンサートは1997年の東京国際フォーラム、
2008年のグリーンホール相模大野に続き3回目だが、
今回の公演が一番心に深く刻まれた。
(席が最高だったせいもあるが)
約30名のストリングスによる贅沢なアンサンブルによって
お馴染みの曲が次から次へと披露される。
独立して演奏された曲ももちろん素晴らしかったが、
時折挟み込まれたメドレー(の繋ぎ具合)に
バカラックの音楽家としての面白さ、奇抜さが
表れているような気がして、
そちらの方をより楽しむ自分がいた。
特に2回目のメドレーの「One Less Bell To Answer」から
「I'll Never Fall In Love Again」に移った瞬間や、
ムーヴィー・メドレーの「The Look Of Love」から
「Arthur's Theme」に流れた瞬間などなど。
バカラックのピアノのフレーズを合図にして
曲が移り変わった瞬間、ホールの空気も一瞬にして変化する。
そこには彼の音楽のマジックが確実に存在した。
キーボード担当のシンガーによる「My Little Red Book」や、
(ビートルズじゃなくて)シュレルズのヴァージョンだった
「Baby It's You」、80年代に青春を送った者にとっては懐かしい
「On My Own」なども最高に嬉しかったが、
やっぱりバカラック本人が歌う「Wives And Lovers」と「Alfie」の
特別な感慨には敵わなかったような気がする。
小さく背を丸めピアノに向かい、
たまに咳き込みながら歌う「Alfie」。
先日読み終えたばかりの自伝にも、
この曲の歌詞を書いたハル・デイヴィッドへの賛辞と、
自身のメロディに対する誇りが熱く綴られていたが、
その想いが伝わってくるような名演だった。
スーツ姿にスニーカーのダンディなマエストロ、85歳。
まだまだいけるでしょう。
今日のBGM:「Be Aware」by Dionne Warwick
↑アンコールの1曲目で歌われた曲が新曲とばかり思っていたが、
家に帰ってから調べてみたら
ディオンヌ・ワーウィック1972年のアルバム『Dionne』の中の1曲だと判明。
先日ペンシルヴェニア州の高校で起こった殺傷事件の
被害者にトリビュートするつもりで歌ったとのことだが、
こういう姿勢にもまだまだ現役の表現者たる鋭さを感じる。
そしてこの「Be Aware」は名曲だと思った。

