2013年05月13日

A Natural Woman

『キャロル・キング自伝 ナチュラル・ウーマン』を読了。

最近は仕事ばっかりの日々で、
抑揚のない日々を過ごしているので読書の時間は至福のひと時。
仕事を終え明け方にベッドに潜り込んで、
この本でキャロル・キングの人生を追体験することが
何よりの喜びだった。

500ページある本書は、キャロルが住んだ場所によって
大きく4つの章に別れている。NY時代、LA時代、アイダホ時代、
そして世界中を飛び回っている近年と。
それぞれの場所に移り住むきっかけには必ず愛する男性の存在がある。
下世話な言い方をすれば、結婚と離婚を4回繰り返したキャロルの
男性遍歴によって章が変わっていくのだが、
不思議と「恋多き女」的スキャンダラスな匂いが全くしない。

それは毎回の恋愛にいつも真剣に向き合っていることと、
その間にも子供たちへの愛が一番に注がれていることが大きいと思う。
音楽的には天才でも、ひとりの女性の生き方としては
結構不器用だったりするのがとても共感した部分だった。
(その姿はまさしく「ナチュラル・ウーマン」!)

読む前は多分に音楽ネタを期待していたけど、
最初の4分の1くらいでアルドン時代があっさり終了、
あの『Tapestry』でようやく半分くらい、
その後はアイダホでの田舎生活、3番目の夫の虐待問題、
土地所有権の裁判争いなど、自分の知らないことばかりで
逆にそっちの方が壮絶で面白かったくらい。
そういう意味では本書は音楽書というより、
怒濤の時代を生き抜いたとある女性の一代奮闘記と捉えた方がよさそう。

それでもニール・セダカ、ポール・サイモン、
バリー・マンとシンシア・ワイル(エリー・グリニッチと
ジェフ・バリーは登場なし。フィル・スペクターも!)、
ブライアン・ウィルソン、ドン・ヘンリー、ボブ・ディラン、
ジェイムス・テイラー、ジョニ・ミッチェル、
そしてもちろんジョンとポールといったアーティストたちとの
交友録にはやっぱり興奮させられた。

中でも印象深かったのはジョン・レノンとのやりとりだ。
キャロルが1965年にホテルでビートルズと体面した時に、
ジョンが彼女に対して失礼な態度をとった理由を、
70年代に再会したジョンに問いただすというエピソードがあった。
その時にジョンが言ったセリフが泣きたくなるくらい素晴らしかった。
「君とジェリーはあまりにも偉大な作曲家だったから、
見下されないためには何を言っていいか分からなかったんだ」
(あぁジョンってこういうヤツなんだよなぁ!)

それともうひとつ、
1963年にドン・カーシュナーがアルドンを売却すると知った
ジェリーとキャロル、バリーとシンシアの4人が、
自分たちを不動産のように扱ったと感じて
カーシュナーに猛烈に抗議するというエピソードがあった。
それから50年近く後の2010年、カーシュナーが亡くなる前年に
キャロルは彼の自宅にお見舞いに行って
「あの時の売却は正しい判断でしたよ」と伝えたら
彼の表情は日が昇ったように明るくなったという。

こういう長い時間の流れの中での赦しや氷解の場面には胸が熱くなる。
ひとりの70年間の人生を物語るということは、
そういった過去の過ちや愚かさを見つめ直して
ひとつひとつ清算していくことなのかなと思ったり。

最後に本書を読んで判明した謎がある。
以前このブログで『Tapestry』のリリース告知を紹介したことがあったが、
その告知の中に本物のタペストリー(刺繍)の写真があった。
それはキャロル自身が手の空いた時間に縫っていた
本物の刺繍なのだそうだ。
結局この刺繍は、“Thank You”と縫い込まれて
プロデューサーのルー・アドラーにプレゼントされたという。
米オリジナル盤LPの見開き↓にはしっかり写っている。
(自分の持っている再発盤はシングル・ジャケだから
今までこの刺繍の存在は知らなかった)


Tapestry Gatefold Cover.jpg


今日のBGM:「Music」by Carole King

↑キャロル・キングの人生の中には、
普通の生活が送れなくなるという理由から
音楽を遠ざけていた時代もあった。
しかし最後の最後に彼女は
「私にとって音楽こそが普通の生活なのだ」と理解して、
この「Music」という曲の歌詞の一節が紹介されて本書は終わる。

3年前のトルバドール・リユニオン・ツアーを、
この本を読んでから体験したかったな。


Music.jpg


posted by Good Time Graphicker at 05:07| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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