2013年03月26日

The Wrecking Crew

遅まきながら
『レッキング・クルーのいい仕事』を読み終えた。

60年代から70年代にかけて活躍した
西海岸のトップ・スタジオ・ミュージシャンたちの物語。
まさに「物語」で、著者が当事者たちに行った膨大なインタヴューを
話し言葉としてそのまま載せるんじゃなく、
ひとりひとりのミュージシャンの物語として構成されていて
楽しく読めた。

無名のいち音楽ファン、またはプレイヤーが
アメリカの片田舎から成功を夢見てロサンゼルスにやってくる。
様々な紆余曲折や出会いを経て、コネでしか入れない
LAのスタジオ・ミュージシャンの仲間入りを果たし、
(今では誰もが知る)ヒット曲のレコーディングに参加するという
大きなクライマックスに到達するそれぞれの物語は、
読んでいてとてもスリリングだった。

フィル・スペクターやビーチ・ボーイズといった
今や伝説となっているレコーディングに関しての物語は、
今までに様々な本やCDの解説などで聞きかじっていたために
そんなに新鮮ではなかったが、
例えばジミー・ウェッブやメイソン・ウィリアムズなどの
レコーディング時のエピソードなどは、
自分があまり知らなかったこともあってとても興味深く読めた。

まだ19歳の若造だったジミー・ウェッブが、
ジョニー・リヴァースの『Changes』というアルバム制作のため、
自身が書いた「By The Time Get To Phoenix」
レッキング・クルーのメンバーたちと初セッションする
緊張感溢れるエピソードが面白かった。

ウェッブが超一流のキーボーディストであるラリー・ネクテルに
ピアノの席を譲ってもらおうと声をかけると、
他のプレイヤーたちに「こいつ何様?」という
冷たい視線を一斉に投げかけられという。
でもそれは作曲者本人に演奏に参加してもらいたいという
ジョニー・リヴァースたっての希望であり、
実際演奏が終わると「この若造は本物だ」と
プレイヤーたちに一瞬にして認められたのだとか。
そしてそのレコーディングにはなんと
スティーヴ・マックィーンが見学に来ていたという。

またメイソン・ウィリアムズの
「Classical Gas」のレコーディングでは、
ワーグナーの作品からヒントを得た複雑怪奇なアレンジに、
いつもの3コードのロックンロールの演奏に飽き飽きしていた
レッキング・クルーのメンバーたちが奮い立って
現場が大いに盛り上がったという。

一介のフォーク・ミュージシャンだったウィリアムズが
女の子の気を惹きたいという動機だけで書いたこの曲が、
マイク・ポストのアレンジとレッキング・クルーの演奏で生まれ変わり、
チャート2位に輝きグラミー賞まで穫ってしまうんだから
ポップスはアレンジと演奏が肝だとつくづく思う。
(米ラジオ史上、最も多くオンエアされたインスト曲でもあるそうだ)

こういった物語は音楽を聴く上で大して重要ではないかも知れない。
でも知っていればその曲が何倍も味わい深く鑑賞できる。
実際に僕はこれらのエピソードを読んでから、
ジョニー・リヴァースの「By The Time Get To Phoenix」も
メイソン・ウィリアムズの「Classical Gas」も
何回も聴き直してしまった。
そしてこの2曲がますます好きになった。

ところで、この本の巻末には謝意として
著者がインタヴューを行ったミュージシャンや関係者の名前が
1ページに渡って記載されているのだが、
その中に“ジャッキー・ワード”の名前があるのを
僕は見逃さなかった。

我が愛しのロビン・ワードにもインタヴューをしていたなんて。

セッション・シンガーとして60年代のヒット曲に多大な貢献をした彼女、
残念ながら本文にはどこを探してもその名前は出て来なかったが、
謝意のページに載っていただけで
何だか嬉しくなってしまった。

《お知らせ》
水上さんと隔月でやっているイベント
「Good Old Boys」が明日に迫ってきました。
3月はいつもゲストを呼ばずに2人だけでのんびりやっています。
年度末の忙しい時期ですが、前向きな春仕様のポップスを
多くかけたいと思っていますので、ぜひ遊びに来て下さい。

-----------------------------------------------------------------------------
音楽&トーク・イベント「Good Old Boys」
出演:水上徹/高瀬康一
日時:2013年3月27日(水)Open:19:00 / Start:19:30
入場料:1,000円
場所:Live Cafe Again
東京都品川区小山3-27-3 ペットサウンズ・ビル 地下1F
-----------------------------------------------------------------------------


今日のBGM:「Classical Gas」by Mason Williams

↑“ジャンゴ・ラインハルト風のギター・ソロから始まり、
ブリッジでワーグナー・チューバが集中砲火のように鳴った後、
「一斉突撃の転調」で最高潮を迎える怪物級のぶっとんだ傑作”
とは、本著での表現。ちょっと褒め過ぎ?

ELOの「First Movement(Jumping Biz)」は、
この「Classical Gas」にインスパイアされたというのが昔からの自説。
意外とジェフ・リンやロイ・ウッドあたりのイギリス勢にも
影響を与えてると思う。


The Mason Williams.jpg


posted by Good Time Graphicker at 05:29| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。