ロドリゲスというシンガーの数奇な運命を追った音楽ドキュメンタリー。
サンダンスやアカデミーで賞を穫って話題になっているので、
色々なところで語られているはず。
(なので内容はここでは詳しく触れない)
タイトルなどのグラフィックが美しかったり、
アニメーションを使用したりするような映像センス、
ミステリーをひとつひとつ解き明かしていくような構成や、
もちろんその果てにある劇的な展開などにも心打たれたが、
そういった映画的なことよりずっと感動したのは
ロドリゲスの音楽そのものだった。
映画館で体験する音楽は2、3割増しで良く聴こえるのだけど、
それを差し引いても、詩、メロディ、サウンドも含めて
彼の音楽の全ての要素が胸に迫ってきて、
上映中興奮しっぱなしだった。
映画では何曲も彼の歌が流れるのだが、
フェイドアウトして物語に戻ってしまう度に
「ああ、もっと聴かせてよぉ」と心の中で叫んでしまったくらいだ。
街に暮らす孤独や辛さ、社会への痛烈なメッセージを
ホセ・フェリシアーノみたいな声で、
時には辛辣に、時には叙情的に歌う。
黒っぽくてファンキーな曲もあるが、
(南アフリカではデビュー・アルバム『Cold Fact』からの
そういうタイプの曲がウケたのだろう)
僕は2ndアルバムからのSSWっぽい曲の方がグッときた。
ストリングスを多用した甘いアレンジが
歌詞の陰影を強くして、とても切なく聴こえたから。
ロドリゲスの音楽性の質の高さは、
当時のレーベルのサセックスがお金をかけてレコーディングしてる
ことからも分かる。たぶん相当期待していたんだろう。
驚くほどしっかりとしたアレンジとサウンドで、
これがアメリカで全く売れなかったというのが本当に不思議。
1960年代のプロテスト・フォークには遅く、
1970年代のニュー・ソウルには早かったから。
受け入れられなかった理由をそう分析してる文章を読んだが、
時代のタイミングを少し逃しただけで
これだけの才能が埋もれるものなのだろうか。
ロドリゲスは今、ツアーに明け暮れているらしいし、
新作の予定もあるという。
この21世紀の時代に聴かれるために彼の音楽は長い間
埋もれていたのかもしれない。
サントラは絶対買うにしても、
2ndアルバム『Coming From Reality』のアナログ盤が
どうしても欲しい。
今日のBGM:「Cause」by Rodriguez
↑1971年リリースのアルバム『Coming From Reality』から。
映画の中で流れた曲で一番感動した。
クリスマスの2週間前に失業した男の物語が、
まるでジミー・ウェッブの曲みたいな甘いアレンジで歌われる。

