映画『アントニオ・カルロス・ジョビン』を観に行ってきた。
現在、角川シネマ有楽町で開催されている
『大人の音楽映画祭』という企画の中の1本で、
日本初上陸ということで以前から気になっていた作品だ。
これが素晴らしい映画だった。
観る前はてっきりジョビンの生い立ちや作品を追った
普通のドキュメンタリー映画とばかり思っていたが、
ナレーションや解説のテロップは一切なく、
ただひたすら世界各国の歌手やグループがジョビンの名曲を歌い
演奏するシーンのみで構成されていたのだ。
「良い音楽に解説などいらない」という
制作者の潔い姿勢が伝わってくるようだった。
今の時代なら、
YouTubeにアップされている映像を自分で繋いで編集していけば、
このくらいの作品はすぐに作れてしまいそうだが、
やはり大きなスクリーンと大音量で“体験”してしまうと、
圧倒的な音楽の魅力に飲み込まれてしまう。
60年代初頭のリオの空撮から始まって、
次から次へと登場する孤高のシンガーたち。
ピエール・バルーのギター弾き語りや、
動くミーナやシルヴィア・テリスは初めて観たし、
ゲイリー・バートンのヴィブラフォンの演奏技術には驚愕。
サミー・デイヴィス Jr.のスキャットは最高にイカしてたし、
サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド、
ジュディ・ガーランドなどの大物シンガーの貫禄の歌声も堪能できた。
ジョアン・ドナート、ナラ・レオン、ガル・コスタ、
カエターノ・ヴェローゾ、ミルトン・ナシメントなどの
ブラジルのアーティストも多数出演していたし、
日本からもマルシア(!)と小野リサが登場。
もちろんその間々にジョビン本人の演奏や歌声もたっぷりと挟まれていた。
中でも一番感動したのは、
「Aguas de Marco」(邦題「三月の水」)を歌う
エリス・レジーナとジョビンの映像だ。
恐らく1974年のアルバム『Elis & Tom』制作時のものだと思うが、
大抵の曲は途中でフェイドアウトされてしまっていたのに
この共演はフル・コーラスで流れた。
マイク1本を2人で挟むようにして、
まるで恋人の語らいのように楽しく歌うエリスとジョビンが
とても印象的だった。
あとはやっぱりフランク・シナトラとジョビン。
ジョビンがギターを弾き、シナトラが煙草を吸いながら
「Garota de Ipanema」(邦題「イパネマの娘」)を歌う映像だが、
この2人の共演したレコードが大好きな僕はジーンと来てしまった。
ところで、冒頭にモノクロの古い映像で
巨大な建築物が写ったがあれは一体何だったのだろう?
ナレーションが全く入らないので分からなかったが、
ジョビンが建築事務所で働いていた経歴を示すものだったのか、
リオのアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港だったのか?
(でも空港には見えなかったな)
以前この日のブログで
「ボサノヴァと建築には面白い関係がある」と書いたことがあった。
ジョビンが若い頃に建築家を目指していたことや、
ホベルト・メネスカルが有名建築家の息子であったこと、
ボサノヴァが学生に浸透するきっかけを作ったと言われる
「第1回サンバ・セッション・フェスティヴァル」が行われたのが
リオの建築大学だったというような、
諸々の事実にとても興味があったからだ。
そう言えば、上記の「三月の水」の歌詞に、
梁、空間、棟上式などといった建築用語が多数登場することも、
ジョビンの感性を知る上でとても興味深い。
今日のBGM:「Aguas de Marco」by Elis Regina & Tom Jobim

