『魔法の音楽〜アメリカン・ポップス黄金時代とその舞台裏』を
ようやく読了。
副題の通り、1950年代後半から60年代中頃くらいまでの
アメリカン・ポップス黄金期の舞台裏を、
7組のソングライター・コンビに焦点を当てて描き出したもの。
音楽的な専門用語に対する訳文の分かりにくさなどもあって
音楽誌の評価は低かったのが残念だが、
アルドン・ミュージックやブリル・ビルディングについて
これだけ詳細に語られた本は(日本では)今までに無かったわけで、
オールディーズ・ファンはやっぱり無視できない。
自分のようにアメリカン・ポップスが
三度の飯よりも好きな人間にとっては、
目から鱗的なトリヴィアや逸話が満載だったし、
どこか夢の世界のようなあの時代の音楽が
血の通ったエピソードによって生々しくリアルに感じられて、
もう一度ちゃんと聴き直してみようと思い至ったり。
例えば曲に関しての面白いトリヴィアを何個か紹介してみると…
●ニール・セダカの「Oh! Carol」はドン・カーシュナーが
ダイヤモンズの「Little Darlin'」みたいな曲を書けと迫ったせいで
出来上がった曲だとか。
●(このブログのタイトルにもなっている)
バリー・マンの「Who Put The Bomp」という曲は、
「30分で3曲書けるか?」というライター同士の賭けのゲームから生まれたとか。
●「A Teenager In Love」という曲は
当初ポーマス&シューマンがミスティックスのために書いたが、
ローリー・レコードのオーナーが勝手にディオン&ザ・ベルモンツに
流してしまったため、それを申し訳なく思ったポーマス&シューマンが
エレガンツの「Little Star」のような曲をと
ミスティックスに書き贈ったのがあの「Hushabye」だったとか。
などなど。
あと以前このブログでも触れた、
ゾンビーズの「Tell Her No」がバカラックの半音ずつ上がっていく
コード進行を真似て作られているという話も、
本書にしっかりと書かれていて驚いてしまった。
冒頭で書いたアルドン・ミュージックとは
アル・ネヴィンスとドン・カーシュナーが作った音楽出版社のことだが、
アル・ネヴィンスはもともとスリー・サンズのギタリストだった人だ。
アルドンと最初に契約したニール・セダカが歌手としてデビューする際、
レーベルがRCAになったのはスリー・サンズもRCAだったからだという。
考えてみればとてもシンプルなことだが、
こんなことからもそれまでのイージーリスニングの世界と、
50年代以降のロックンロールの時代が見事に繋がっているという事実に
改めて気付いてしまった。
あと、個人的に前々から不思議に思っていた
フィル・スペクターはなぜ(ゴフィン&キングやマン&ワイルよりも)
バリー&グリニッチと相性が良かったのかという疑問に対して、
(なにせフィレスでは「Da Doo Ron Ron」から9作連続
バリー&グリニッチ作品であり、それはそのまま最盛期とピッタリ重なるのだ)
ジェフ・バリーとエリー・グリニッチはどちらも作詞・作曲をこなし、
完全なる共同作業だったせいで、スペクターも交わりやすかったのではないか
という著者の指摘には、なるほどと膝を打ってしまった。
本書で一番好きなエピソードは、
ゴフィン&キングとマン&ワイル両夫妻が休暇のスキー場から帰る途中、
どちらのカップルの曲がカーラジオから多く流れてくるか
競い合ったという話だ。
かなりのデッドヒートだったというが、最後にキャロル・キングが
ジェリー・ゴフィンではないパートナー(ハワード・グリーンフィールド)
と作った「Crying In The Rain」が流れて、
キング夫妻が半ポイント差で勝利したという。
エヴァリー・ブラザーズの「Crying In The Rain」が
ヒットしていたというと、1962年頃の話だろうか。
この頃がアルドンのスタッフ・ライターたちにとって絶頂期であり、
一番幸せな時期だったはずだ。
ビートルズやボブ・ディランのような
アーティスト自らが曲を書く時代になると
彼らは一斉に低迷期に入り、ほとんどのコンビは解消してしまう。
ジェリー・ゴフィンなどはドラッグに溺れたりして、
その後のエピソードは少々読むのが辛かった。
だからこそ、この62年の想い出話はキラキラと輝いていて
本書の中でも強烈なインパクトを残す。
(『グレイス・オブ・マイ・ハート』みたいなフィクションじゃなくて
ちゃんと実話に基づいた伝記映画として)
この頃の若きソングライターたちがもし映画になったとしたら、
このカーラジオのエピソードだけは絶対に描いて貰いたいと
切実に思う。
今日のBGM:「Run To Him」by Bobby Vee
↑アルドンのライターたちが一番輝いていた時期に
活躍したシンガーのひとり、ボビー・ヴィー。
この「Run To Him」は1961年に全米2位まで上った代表曲だが、
曲を書いたジャック・ケラーが本書で面白いことを言ってる。
この曲が出来た時、バート・バカラックとハル・デイヴィッドの前で
ピアノで聴かせたことがあった。そのせいでバカラック&デイヴィッドの
「(They Long To Be)Close To You」のブリッジ部分が、
この「Run To Him」にそっくりになったという。
(ホント!? でも確かに似てるよね)

