2012年02月15日

Get back, SUB!

『Get back, SUB! あるリトル・マガジンの魂』をようやく読了。

70年代前半に『SUB』という伝説の季刊文化誌を作った
名編集者・小島素治(1941〜2003)の人生を追ったルポルタージュ。
『クイック・ジャパン』で2003年から2007年まで
連載されていたものを書籍化した北沢夏音氏の力作だが、
この2週間、この本のせいで完全に寝不足状態。
そのくらい面白いかった。

もともと小島素治という人も
『SUB』という雑誌も全く知らなかったが、
それでも冒頭でいきなり胸ぐらを掴まれたように物語に入っていけたのは、
本書の構成がよく練られているからではないか。

著者が90年代初めに1冊の雑誌を古本屋で見つける。
その魅惑的な雑誌を作った人間に会ってみたいという
素朴な興味から取材が始まり、意外とあっさり本人に出会えてしまうが…。
その後の展開は、まるで良質なミステリー小説のようだ。
関係者に会う度に謎が解け、また新しい謎が生まれる。
最後の最後にようやく、感性豊かなひとりの人間の
壮絶な人生の全体像が浮かび上がる。

もともとは連載だったので、
取材などはほぼ時系列で収められていると思うが、
これだけの膨大な情報量をまとめ上げた編集の巧さには舌を巻く。
特に「フール・オン・ザ・ヒル」(という最後の章)〜著者の長いあとがき〜
草森紳一氏の追想〜『SUB』『ドレッサージ』『ギャロップ』の雑誌の図版、
といったラストの流れには映画のクライマックスのような興奮があった。

更にはサブカルチャーを語る上で重要な様々な文化的背景、
特に音楽、映画、アート(写真・エディトリアル)、文芸、広告などについての
著者による詳細な解説もとても勉強になった。
(自分はまだまだ知らないことばかりだ)

それにしても小島素治という人間の、なんと味わい深いことか!

破滅的な生き方をする人はいつの時代にもいると思うけど、
これだけ(良くも悪くも)自分の美学を貫ける人は
これからの時代、もう出て来ないのではないか。

冒頭で本書は面白いと書いたが、
面白いという単純な表現は的確ではない。

表現者として生きていこうと決めた人間にとっては
厳しい現実を何度も突きつけられたし、
感性を武器に仕事をしていく(食べていく)ことの危うさ、難しさに、
本を閉じて考え込んでしまうことも多々あったから。

そんなビターな後味を味わうのと同時に、
でもやっぱり表現していくことの喜びや勇気を感じられたのも事実。

久々に読み終わることに一抹の寂しさを憶えた本だった。


今日のBGM:「Rockin' Pneumonia - Boogie Woogie Flu」by Johnny Rivers

以前から『クイック・ジャパン』はちょくちょく買ってはいるのに
この連載のことはほとんど意識していなかった。
さっき近くの本棚にあった2005年10月号(Vol.62)の連載を見てみたら、
『SUB』6号(1973年7月発行)に掲載された、
小島氏のレコード・コレクションが再掲されていた。

「Coffee Break: 28 Hour」と題されたそのページには
ゲイリー・マクファーランド、ジャック・パランス、ジェリー・マリガン、
ハリー・ニルソン、ヴァン・ダイク・パークス、リチャード・ハリスといった
絶妙なセレクトのレコードが並ぶ。

その中でも特に目を惹くのがジョニー・リヴァースの2枚、
『Changes』と『L.A. Reggae』だ。
小島氏はジョニー・リヴァースが大好きだったらしい。

↑曲は『L.A. Reggae』からシングル・カットされたヒューイ“ピアノ”スミスの
カヴァー「Rockin' Pneumonia - Boogie Woogie Flu」を。
(確か大滝さんがLAに行った時にライヴで観て、
ニューオーリンズにハマるきっかけとなったナンバー)


L.A. Reggae.jpg


posted by Good Time Graphicker at 06:27| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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