文字の形には敏感に反応する子供だった。
習字の稽古をしながら、
密な箇所と何も無い空間のバランスをいつも気にしていた。
文字を意味で捉えるのではなく、
デザインとして見ていたのだと思う。
高校の頃になると"文字フェチ"は更に進み、
ミュージック・テープの背に勝手なレタリングでタイトルを描いたり、
つまらない授業の時には教科書の見出しの文章を
ノートにカッコ良くデザイン化して描き写したりしていた。
大学ではタイポグラフィの勉強を思いっきりしたかったが、
残念ながら視覚伝達デザインの学部には入れなかったので
その願いは適わなかった。
それでもグラフィック・デザイナーになった今、
フォントを決める時が一番ワクワクしてアドレナリンが放出する。
なぜこんなことを書くのかと言えば、
先日、東京都庭園美術館で「20世紀のポスター・タイポグラフィ」展を
観てきたからだ。
タイポグラフィに焦点を絞ったポスターばかり100点以上を
次から次へと観ているうちに、
そんな根っからの"文字フェチ"の感性が刺激されて
段々と気分が高揚してくるのが自分でも分かった。
20世紀前半の構成主義やバウハウスから、
50年代のスイスやドイツで生まれたモダン・タイポグラフィ、
60年代のヒッピー・カルチャーを経て
80年代のポストモダン、そして90年代以降のPC時代へ。
文字のデザインや扱い方ひとつ追っていっても、
その時代々々を象徴しているのが十分過ぎるほどに理解できた。
面白かったのは、
タイポグラフィの世界でも進化を続けるのは70年代くらいまでで、
80年代、90年代になると急にそれまでの再生・模倣をし始める。
コンピュータの時代になったことと無関係ではないと思うが、
それって音楽の進化と同じ構図だなと思った。
自分の一番好きな時代のタイポグラフィは、
1950年代後半から60年代初めにかけてのもの。
デザイナーで言えばヘンリー・ウルフ、レオ・リオーニ、
ポール・ランド、ソール・バスらの作風で観られるような、
シンプルかつクールな使い方にとても憧れる。
これまた自分の音楽の好みと
時代が完全にカブるのが興味深い。
結局僕は音楽やらデザインがどうのこうのではなくて、
1950年代後半から60年代初めという時代そのものが好きなのかも、
なんて思ってしまった。
今日のBGM:「Saint Joan / Main Theme」by Mischa Spoliansky
展覧会ではソール・バスのポスターが一点だけあった。
オットー・プレミンジャー監督作『Saint Joan』(1957年、日本未公開)の、
オーディションのために俳優を募集するポスターだった。
↓のサントラとほぼ同じデザイン。
ということはメイン・キャストが決まってないうちから、
ソール・バスのヴィジュアル・イメージだけはしっかりと
決まっていたということになる。
↑曲はミシャ・スポリアンスキーによる映画のメイン・テーマ。

