2014年06月26日

Keeping The Faith

先週、CRTのビリー・ジョエル特集に
参加してきてからというもの、
ビリー・ジョエルのアルバムばかり聴いている。

久々に『An Innocent Man』を聴いたら
もうめちゃめちゃ楽しくて、
毎日夢中になって音楽をむさぼり聴いていた
中学生の頃に戻ってしまった。

このアルバムのライナーには
ビリー本人による解説が付いていて、
それぞれの曲のネタがあっけらかんとバラされている。

例えば…
「Easy Money」→ジェイムズ・ブラウンのソウル・レヴュー
「An Innocent Man」→ベン・E・キング「Spanish Harlem」
「The Longest Time」→ザ・タイムス「So Much In Love」
「This Night」→リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズ
「Tell Her About It」→ザ・シュープリームス or
マーサ&ザ・ヴァンデラス
「Uptown Girl」→ザ・フォー・シーズンズ
「Careless Talk」→サム・クック「Chain Gang」等々。

このヒネリのない大ネタ使いのせいで、
ビリーがマニアから甘く見られているという意見もあるようだが、
当時15歳の中坊にとっては
この屈託のない分かりやすさが有り難かった。

このアルバムの楽しさの根源を辿るべく、
アメリカン・ポップスの泥沼(?)にズブズブと足を踏み入れたのだから、
本作はまさに自分の原点と言ってもいい。

ところで、
昔からB面の4曲目「Leave A Tender Moment Alone」が大好きで、
トゥーツ・シールマンスの切ないハーモニカがフェイドアウトする度に
この曲が最後だったらいいのにといつも思っていた。
ところがB5には、あまりラストにはふさわしくない曲調の
「Keeping The Faith」という曲が収まっている。

しかし今回「Keeping The Faith」の歌詞を読んでみて、
この曲がアルバム全体のテーマになっていることに気づいた。
もう少し詳しく言い換えると、
なぜ80年代にこんなノスタルジーに溺れていると思われるような
アルバムを作ったのか、その意思表明になっている。
だからアルバムのラスト・ナンバーとして
この曲は必然だったのだ。

「Keeping The Faith」の歌詞の最後の一節が
痛烈に心に染みたので抜粋しようと思う。


古き良き時代はいつも良かったわけじゃない
それに明日だって思っているほど悪くない
今までの僕の人生はこんなものさ
さあ 表に出かけていって
木陰でよく冷えたビールでも飲もう
45回転シングルでも聴くとしようか
ロックン・ロールを聴いていると
生きていることがとても素晴らしく感じる
そして 想い出はいつも鮮やかだ Yeah
僕は誓いを守り続ける
僕は誓いを守り続ける
そうさ
僕は誓いを守り続ける
いつまでもね……



今日のBGM:「Keeping The Faith」by Billy Joel


An Innocent Man.jpg


posted by Good Time Graphicker at 03:20| 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月19日

Inside Llewyn Davis

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』を観た。


Inside Llewyn Davis.jpg


コーエン兄弟の久々の音楽ネタ映画ということで、
かなり前から期待していた。
映画のヒントとなったデイヴ・ヴァン・ロンクの自伝を
読んでから観ようと思っていたが、残念ながら間に合わず。

思ってた以上に地味な映画だったが、
非常に愛すべき作品、というのが第一印象。
全編失望感に支配されているのに、
あまり深刻ではないように見えるのは
飄々としたオスカー・アイザックの演技なのか、
フォーク・ミュージックのほんわかとした暖かさなのか、
はたまた準主役と言ってもいいあの「猫」の存在なのか。

お金のためにコロンビア・レコードに出向き、
ノヴェルティ風のポップ・ソングを歌うシーンのおかしさや、
シカゴまで行きアルバート・グロスマンとおぼしき人物の
オーディションを受けた時に言われた言葉の虚しさ、
ホーム・パーティで「1曲歌え」と言われて
「俺は生活のために歌っているんだ!」と怒った時の切なさなど、
ダメ男ルーウィンの言動のひとつひとつが
心に染み入って仕方がなかった。

「歌う」ことで生きる道を選んだルーウィン。
だが堅実な道を勧める姉と衝突し、
「俺はただ生存するために生きるのなんて嫌なんだ!」と吠える。
「あなたの世界じゃどうか知らないけれど、
みんな生存するために生きてるのよ」と冷静に答える姉。
この台詞、身につまされたなぁ。

キャリー・マリガンがクールでしたたかな
女性フォーク・シンガーとして登場。
自分がキャリー・マリガンを初めて意識した『17歳の肖像』も
本作と同じ1961年が舞台の映画だった。
やっぱりこの女優は60年代顔だなと思う。

最後にやっぱりあの「猫」のことを。
あの猫の名前はユリシーズだったが、
確かキャロル・キングがNYで飼っていた猫も
ギリシャ神話のユリシーズとペネロペの息子の名前からとった
テレマコスだったことを思い出す(ジェリー・ゴフィンが名付け親)。
1960年代初頭のNYではギリシャ神話から
猫の名前を付けるのが流行っていたのだろうか?

と思ったら、
『オー・ブラザー!』のジョージ・クルーニーの役名が
ユリシーズだったそうで、
そこから取ったんじゃないか推測してる方がいた。
なるほど、『オー・ブラザー!』と本作は
コーエン兄弟のルーツ・ミュージック映画として双璧を成すから、
そんな小さなリンクも嬉しくなる。

2本続けて観たくなった。


今日のBGM:「Farewell」by Bob Dylan

NYはフォーク・ミュージックが似合う街だなと、
このトレーラーを観てもつくづく思う。


posted by Good Time Graphicker at 04:04| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月09日

Withnail and I

最近観た映画《Part.2》

『今日、キミに会えたら』

新宿シネマカリテで現在
「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション」
というイベントをやっていて、
その中から一番観たいと思ったのが本作だった。


Like Crazy.jpg


久々にこんなストレートな恋愛映画を観た。
センスのいい文科系アイテムもキワドいオタクキャラもゲイも出て来ない、
いたって普通の若い男と女が出会って恋愛するだけの話。
今時そんなストーリーで2時間持つのかって感じだけど、
そのシンプルな話を夢中で追いかけてる自分がいた。

ひと言で言っちゃうと
イギリス人の女性とアメリカ人男性の遠距離恋愛の話なのだが、
監督の(元妻との)実体験によるストーリーと、
主演の男女の即興による台詞や演技がとにかくリアルで、
作り手の衒いやあざとさが全く感じられない。
人を本気で好きになった時の楽しさや不安や切なさを
ただただ丁寧に、繊細に描いている。

観賞後の切なさったらなかった。
恋愛はつくづくタイミングが大事だなと思う。

2011年にサンダンス映画祭で審査員大賞を受賞した作品。
日本では未公開だったが、先月DVDが発売されたとか。
お薦めです。


『ウィズネイルと僕』


Withnail and I.jpg


ジョージ・ハリスンのハンドメイド・フィルムス制作のイギリス映画で、
ブルース・ロビンソン監督の自伝的作品。

1987年制作の映画だが、
日本では1991年に吉祥寺バウスシアターで上映されたのみで、
その縁から、先日閉館したバウスシアターのクロージング作品に選ばれた。
どうせなら(色々と思い出深い)バウスシアターで観たかったけど、
時間がどうしても合わず、後日シネマート六本木で鑑賞。

売れない貧乏役者2人(ウィズネイルと僕)の
何とも冴えない日々をコメディ・タッチで描いただけの内容ながら、
フィルムの端々から強烈に漂う英国臭にむせ返りながら観た。
寒そうな曇天のロンドンの街並(本編中一瞬たりとも晴れのシーンがない!)、
ツイード・コートのファッション、シェイクスピアの台詞、
牧歌的な丘陵地帯、ビートルズやジミヘンの音楽…。

時代背景は1969年。
アメリカが60年代の終焉を描いた映画は何本も観たような気がするが、
イギリスがあの華麗なスウィンギング・ロンドンの終末を描くと
こんなにもブラックな悲喜劇になるのかと驚いてしまう。

ポール・マクガン演じる「僕」が、
仕事を見つけ、髪を切り、ウィズネイルに別れを告げて
ボロアパートを出ていくラストシーン。
その先には堅実な70年代があり、彼は映画監督になって
後に『キリング・フィールド』の脚本を書き上げる。
気になったのは、残された飲んだくれのウィズネイルだ。
彼はその後どうなったのだろう?
(『真夜中のカーボーイ』のラッツォの最期が頭をよぎる)

プロデューサーがジョージ・ハリスン、
プロダクション・コンサルタントという肩書きでリンゴも参加、
ジョニー・デップが「完璧な映画」と言い、
ズーイー・デシャネルが「That's A Great Movie!」と賞賛した本作、
ようやく、ようやく観ることが出来た。

そして更なる驚きが…。
田舎紳士風のスコアが心地良いなと思っていたら、
本作の音楽をデヴィッド・ダンダスが担当していたのだ。
デヴィッド・ダンダスはブルース・ロビンソンと演劇学校の同期だったらしい。

強烈な英国臭の元がここにもあったのだ。


今日のBGM:「Jeans On」by David Dundas

↑映画とは関係ないけど、デヴィッド・ダンダス唯一のヒット曲
(1976年に全英3位、全米17位)で、すごく好きな曲。

↓珍しい日本盤シングルのキャッチ・コピーには
“イギリスの若き貴公子”とあるけど、
実際スコットランドの有名貴族ダンダス家の末裔らしい。


David Dundas.jpg


posted by Good Time Graphicker at 19:59| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする