2013年05月24日

No Thank You

水上さんと隔月でやってるイベント「Good Old Boys」が
来週に近づいてきました。

ちょうど1年前のフォー・シーズンズ特集(祝!来日)に引き続き、
再び“しまMOON”氏をゲストにお迎えして、
松尾清憲特集をお送りいたします。

日本人アーティストを単独で特集するのは、
2年前の佐野元春特集以来2度目です。
しまMOON氏は大の松尾清憲ファンで、
松尾さんのライヴ会場で何回か顔を合わせたことがあります。
かなり初期から追いかけてたということで、
濃い話が聞けることと思います。

松尾さん関連のレコードをガンガンかけまくるイベントなんて、
他にどこもやってないですよ(たぶん)。
松尾ファンはぜひこのチャンスをお見逃し無く!

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音楽&トーク・イベント「Good Old Boys」
出演:水上徹/高瀬康一 ゲスト:しまMOON
日時:2013年5月30日(木)Open:19:00 / Start:19:30
入場料:1,000円
場所:Live Cafe Again
東京都品川区小山3-27-3 ペットサウンズ・ビル 地下1F
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ちなみにこのブログでも、
松尾さんが昔やってたラジオ番組『松尾清憲のポップス泥棒』を
何回か取り上げたことがあった(こことかこことかここ)。
その貴重なエアチェック音源を提供してくれたのも
しまMOON氏だったが、かなり前に続きの音源をまた貸してもらっていた。
実は今回のイベントの前にその音源を何回か紹介して
気分を盛り上げようと思っていたのだが、
仕事が忙しくなってしまって更新ができなくなってしまった。
すみません…本ブログでの“ポップス泥棒特集”はまた次の機会に。

ってことで今日のブログは、
松尾清憲の音楽との出会いについて個人的な話を少しだけ。

松尾さんのソロ・デビューには世代的にドンピシャで(シネマは後追い)、
やっぱりきっかけは「愛しのロージー」だった。
テレビのCMからこの曲のサビが流れてきた時、
ビートルズの関連音源か何かだと
一瞬本気で思ってしまったくらいの衝撃だった。

速攻で1stアルバム『SIDEEFFECTS』を買い、
同じ年にすぐ出た2nd『Help! Help! Help!』も
狂ったように聴きまくった。

しかし一番好きなアルバムは
何と言っても3rdアルバム『No Thank You』なのである。
これにはあまり賛同してくれる人はいないかな。

このアルバムがリリースされた年、
受験した全ての美大に落ちて僕は晴れて浪人生になった。
美術予備校がある新宿まで
千葉から2時間かけて通う日々が始まったわけだが、
この『No Thank You』が長い通学時間の
ヘビロテ・アルバムとなったのだ。
(もう1枚が同じ年にリリースされた
コレクターズの1st『僕はコレクター』だった)

浪人という穴の中に落ちた悲劇を
「穴の中で僕たち」で癒し、
総武線の殺人的な通勤ラッシュを「クルエル ワールド」で嘆き、
なかなか巧くならないデッサン技術への焦りを
「ゲット ユー ダウン ブルー」で笑い飛ばした。
天気のいい朝の都会の眩しさの中で聴く
「サニー シャイニー モーニング」は最高だったし、
予備校の隣クラスの可愛い娘のことを思いながら
「ふたつの片想い」を聴いて切なくなったりもした。

まぁ早い話が、青春の1枚なのである。
それも予備校生という、情緒不安定の日々でもあり
未来への(理由なき)希望がキラキラ輝いていた時代の。

未だにこのアルバムに針を落とすと、
松尾さんの曲と、白井良明氏のアレンジによる屈折した音世界が、
あの美術予備校時代のクルエル・ワールドを強烈に思い出させて、
胸の中に妙なざわめきを呼び起こしてしまうのだ。


今日のBGM:「OH! キャロライン」by 松尾清憲

↑そしてアルバム『No Thank You』の中で一番好きな曲はこれ。
シングル・カットはされなかったのに、
当時A&D(AKAI)のGXというステレオコンポのCMに使われたと記憶している。
それまでにもその後にもあまり出て来ない
50'sっぽいロカビリー調で大好きだったが、
シネマ時代に書かれた曲だと後になって知ってなるほどと思った。


No Thank You.jpg


posted by Good Time Graphicker at 03:27| 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月13日

A Natural Woman

『キャロル・キング自伝 ナチュラル・ウーマン』を読了。

最近は仕事ばっかりの日々で、
抑揚のない日々を過ごしているので読書の時間は至福のひと時。
仕事を終え明け方にベッドに潜り込んで、
この本でキャロル・キングの人生を追体験することが
何よりの喜びだった。

500ページある本書は、キャロルが住んだ場所によって
大きく4つの章に別れている。NY時代、LA時代、アイダホ時代、
そして世界中を飛び回っている近年と。
それぞれの場所に移り住むきっかけには必ず愛する男性の存在がある。
下世話な言い方をすれば、結婚と離婚を4回繰り返したキャロルの
男性遍歴によって章が変わっていくのだが、
不思議と「恋多き女」的スキャンダラスな匂いが全くしない。

それは毎回の恋愛にいつも真剣に向き合っていることと、
その間にも子供たちへの愛が一番に注がれていることが大きいと思う。
音楽的には天才でも、ひとりの女性の生き方としては
結構不器用だったりするのがとても共感した部分だった。
(その姿はまさしく「ナチュラル・ウーマン」!)

読む前は多分に音楽ネタを期待していたけど、
最初の4分の1くらいでアルドン時代があっさり終了、
あの『Tapestry』でようやく半分くらい、
その後はアイダホでの田舎生活、3番目の夫の虐待問題、
土地所有権の裁判争いなど、自分の知らないことばかりで
逆にそっちの方が壮絶で面白かったくらい。
そういう意味では本書は音楽書というより、
怒濤の時代を生き抜いたとある女性の一代奮闘記と捉えた方がよさそう。

それでもニール・セダカ、ポール・サイモン、
バリー・マンとシンシア・ワイル(エリー・グリニッチと
ジェフ・バリーは登場なし。フィル・スペクターも!)、
ブライアン・ウィルソン、ドン・ヘンリー、ボブ・ディラン、
ジェイムス・テイラー、ジョニ・ミッチェル、
そしてもちろんジョンとポールといったアーティストたちとの
交友録にはやっぱり興奮させられた。

中でも印象深かったのはジョン・レノンとのやりとりだ。
キャロルが1965年にホテルでビートルズと体面した時に、
ジョンが彼女に対して失礼な態度をとった理由を、
70年代に再会したジョンに問いただすというエピソードがあった。
その時にジョンが言ったセリフが泣きたくなるくらい素晴らしかった。
「君とジェリーはあまりにも偉大な作曲家だったから、
見下されないためには何を言っていいか分からなかったんだ」
(あぁジョンってこういうヤツなんだよなぁ!)

それともうひとつ、
1963年にドン・カーシュナーがアルドンを売却すると知った
ジェリーとキャロル、バリーとシンシアの4人が、
自分たちを不動産のように扱ったと感じて
カーシュナーに猛烈に抗議するというエピソードがあった。
それから50年近く後の2010年、カーシュナーが亡くなる前年に
キャロルは彼の自宅にお見舞いに行って
「あの時の売却は正しい判断でしたよ」と伝えたら
彼の表情は日が昇ったように明るくなったという。

こういう長い時間の流れの中での赦しや氷解の場面には胸が熱くなる。
ひとりの70年間の人生を物語るということは、
そういった過去の過ちや愚かさを見つめ直して
ひとつひとつ清算していくことなのかなと思ったり。

最後に本書を読んで判明した謎がある。
以前このブログで『Tapestry』のリリース告知を紹介したことがあったが、
その告知の中に本物のタペストリー(刺繍)の写真があった。
それはキャロル自身が手の空いた時間に縫っていた
本物の刺繍なのだそうだ。
結局この刺繍は、“Thank You”と縫い込まれて
プロデューサーのルー・アドラーにプレゼントされたという。
米オリジナル盤LPの見開き↓にはしっかり写っている。
(自分の持っている再発盤はシングル・ジャケだから
今までこの刺繍の存在は知らなかった)


Tapestry Gatefold Cover.jpg


今日のBGM:「Music」by Carole King

↑キャロル・キングの人生の中には、
普通の生活が送れなくなるという理由から
音楽を遠ざけていた時代もあった。
しかし最後の最後に彼女は
「私にとって音楽こそが普通の生活なのだ」と理解して、
この「Music」という曲の歌詞の一節が紹介されて本書は終わる。

3年前のトルバドール・リユニオン・ツアーを、
この本を読んでから体験したかったな。


Music.jpg


posted by Good Time Graphicker at 05:07| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月06日

You'll Be Needing Me Baby

昨日の『サンデー・ソングブック』で
デヴィッド・ゲイツの「You'll Be Needing Me Baby」が流れた。

この曲については、
レターメンとかニノ&エイプリルとかのヴァージョンのことを
当ブログでも散々語ってきたけど、
まさか曲を書いた本人のデモ・ヴァージョンが存在するとは思わなかった。
この曲はメロディがホント自分好みで
誰が演っても最高だと思っていたけど、
本人のデモも信じられないくらい素晴らしかった。

最近リリースされたデヴィッド・ゲイツ作品集
『David Gates The Early Years 1962-1967』に収録されているという。
このCDは解説の訳文が読みたくて日本盤が出るまで我慢していた。
(ペット・サウンズのちょっと前のブログによれば、
日本盤がようやく出たみたいなので買いに行かなきゃ)

デヴィッド・ゲイツは一般的にはブレッドのメンバーとして有名だけど、
実は60年代前半からコンポーザー、ミュージシャン、アレンジャーとして
裏方街道をひた走ってきた苦労人だ。

同じオクラホマ出身のレオン・ラッセルとデュオを組んだり、
マーティン・デニーになんちゃってジャズを書き贈ったり、
ヴェンチャーズやジャック・ニッチェのインスト制作に関与したり、
他にもサーフィン物、ガール物、ノヴェルティ物の作曲&アレンジと、
“業界の便利屋”としてあらゆるジャンルに手を染めてきた。
その道筋を辿ると、恐らく60年代の西海岸産ポップスの歴史が
おおよそ語られてしまうのではないだろうか。

大瀧さんの『アメリカン・ポップス伝』を聴いても思ったけど、
バディ・ホリーもエヴァリー・ブラザーズもロイ・オービソンも
有名になるまで(ヒットが出るまで)トライ&エラーを繰り返して
かなり苦労してる。その苦労の多さと、
花開いた後の音楽性の奥深さが比例するというようなことが
もしあるとすれば、このデヴィッド・ゲイツもまさにそういったタイプの
非常に興味深い音楽人だと思う。

実は上記したデヴィッド・ゲイツの経歴は、
初めて買った『VANDA』(1994年発行15号)で
宮治さんが連載していたコラムで知ったことだった。
そこには2ページに渡るバイオグラフィ(1962年〜64年)と、
詳細な「David Gates Works List」が載っていた。

それまでは何となくブレッドのいい曲を書く人
(そしてもちろん映画『グッバイ・ガール』の主題歌を書いた人)
というイメージしか持ってなかったので、その裏方経歴にすごく驚いた。

更にその前のページでは別の方がニノ&エイプリルのコラムを書いていて、
『All Strung Out』というアルバムに収録されている
「You'll Be Needing Me Baby」がデヴィッド・ゲイツ作で
最高にいかしている、と熱っぽく語っていたのだ。

この2つのコラムでデヴィッド・ゲイツのことを更に深く、
そして「You'll Be Needing Me Baby」という曲も
同時に頭にインプットされたのだった。
あれから20年弱、ようやく初期作品集がリリースされて、
彼のワークスの一部が簡単に聴けるようになったことがとても嬉しい。

ところで、
デヴィッド・ゲイツに60年代の裏方苦労話を語ってもらったら
相当面白いインタヴューになりそうだと思うのだが、
誰かやらないのだろうか?


今日のBGM:「No One Really Loves A Clown」by Johnny Crawford

↑今回の作品集にも入っているデヴィッド・ゲイツによるナンバー。
(プロデュースはジェリー・ゴフィン)
このジョニー・クロフォードの曲のタイトルを見てハッと思ったんだけど、
これってゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズの
「Everybody Loves A Clown」のアンサー・ソングじゃん?
いや、ジョニー・クロフォードが1962年で先だから、
「Everybody Loves A Clown」の方がアンサー・ソングか?

ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズの
「Everybody Loves A Clown」を書いたのはレオン・ラッセル。
前述した通りデヴィッド・ゲイツとレオン・ラッセルは同郷の同士だから、
ゲイツの曲に反応して(クラウン繋がりで)「Everybody Loves〜」を
L・ラッセルが書いたということも案外ありえそう。
(曲ももろバディ・ホリーで何となく似ているような…。
間奏の過激な弦アレンジもG・ルイス&ザ・プレイボーイズっぽい)


Johnny Crawford.jpg


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